5人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当!?ありがとう、あきちゃん!」
絞り出すような承諾に、律子は嬉しそうに亜紀乃の両手をぶんぶんと振った。
「だけど、おばさんとこの息子さん、私一回も会ったことないよね?顔も知らないんだけど」
「そりゃ、会ったらきっとやだって断られそうだから」
「え?」
「な、何でもないわ。何でも」
尋ね返す亜紀乃に、律子は慌てて首を振り、曖昧にごまかした。
(……?)
何だか引っかかる。
でもまあ、どんなに酷いか知らないが律子の息子だし、前々から妹か弟が欲しかったからちょうどいいやと、亜紀乃は無理やり納得した。
「で、息子さん、名前なんていうんだっけ?」
「晃(ひかる)よ」
「わ、可愛い名前」
亜紀乃が思わずそう零すと、律子は再びこめかみ辺りを抑えて「名前は良いのに、どこで教育間違えたんだか…」と呻いた。
(…そ、そんなにヒドいのかなぁ)
律子のオーバーリアクションを見ていると、余計に不安が煽られる。それを払拭するため、亜紀乃は急いで次の話題を持ちかけた。
「で、その晃くんは、今日は部活?」
「まさか。まだ寝てるわ。いっちょまえに春休み中だけ夜にバイトしてんのよ」
「へえ…偉いね、ちゃんと稼いで。あたしのときは、バイト禁止だったから」
「そりゃね、やることやっててバイトするんならいいけどね」と、律子は自分の息子にあくまで否定的だ。
「今日はバイト休みみたいだから、夜には起きてくるでしょ。あきちゃん、うちに晩ご飯食べにいらっしゃいよ。その時紹介するから」
「はあ。でも…何か緊張するなぁ…」
「なーに言ってんの!そんな弱気じゃつけあがる子なんだから。もうビシバシ監督してやってちょうだい。何なら、昔私が使ってた竹刀貸すわよ?」
「竹刀!?ちょ、おばさん!」
「あははは、冗談よ。半分」
「……」
ーー半分は本気か…。
最初のコメントを投稿しよう!