はじまりはあらし

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「本当!?ありがとう、あきちゃん!」 絞り出すような承諾に、律子は嬉しそうに亜紀乃の両手をぶんぶんと振った。 「だけど、おばさんとこの息子さん、私一回も会ったことないよね?顔も知らないんだけど」 「そりゃ、会ったらきっとやだって断られそうだから」 「え?」 「な、何でもないわ。何でも」 尋ね返す亜紀乃に、律子は慌てて首を振り、曖昧にごまかした。 (……?) 何だか引っかかる。  でもまあ、どんなに酷いか知らないが律子の息子だし、前々から妹か弟が欲しかったからちょうどいいやと、亜紀乃は無理やり納得した。 「で、息子さん、名前なんていうんだっけ?」 「晃(ひかる)よ」 「わ、可愛い名前」 亜紀乃が思わずそう零すと、律子は再びこめかみ辺りを抑えて「名前は良いのに、どこで教育間違えたんだか…」と呻いた。 (…そ、そんなにヒドいのかなぁ) 律子のオーバーリアクションを見ていると、余計に不安が煽られる。それを払拭するため、亜紀乃は急いで次の話題を持ちかけた。 「で、その晃くんは、今日は部活?」 「まさか。まだ寝てるわ。いっちょまえに春休み中だけ夜にバイトしてんのよ」 「へえ…偉いね、ちゃんと稼いで。あたしのときは、バイト禁止だったから」 「そりゃね、やることやっててバイトするんならいいけどね」と、律子は自分の息子にあくまで否定的だ。 「今日はバイト休みみたいだから、夜には起きてくるでしょ。あきちゃん、うちに晩ご飯食べにいらっしゃいよ。その時紹介するから」 「はあ。でも…何か緊張するなぁ…」 「なーに言ってんの!そんな弱気じゃつけあがる子なんだから。もうビシバシ監督してやってちょうだい。何なら、昔私が使ってた竹刀貸すわよ?」 「竹刀!?ちょ、おばさん!」 「あははは、冗談よ。半分」 「……」 ーー半分は本気か…。
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