彼の記憶

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「女帝アゼリア=エ=グラドゥス=リドラータ陛下、御即位!フランドルク帝国万歳!!」 帝都フェッテンブルクにある王城。先帝を打ち倒し、新帝国フランドルクを創立したアゼリアの戴冠式が、今まさに行われていた。 建国に際し、彼女を守り抜き、共に戦場を駆け抜けた騎士たちがアゼリアの玉座の近くを固めている。 一人一人が、彼女の前に膝まづき祝福の言葉を述べる。彼女は、目を潤ませながら、彼等の言葉に答える。最後の一人が膝まづく。夕闇色の長い髪。すらりとした長身。そして何より、深山の淵の色をした、複雑な色の双眸。 彼を見つめるアゼリアの両頬は、淡く薔薇色に染まる。彼の両頬も同じように染まり、情熱の籠った瞳で見つめた先には……王姉エティアナ=エ=ミトゥールス=リドラータがいた。 エティアナもまた、彼を見つめる。二人の間には蜂蜜の様な甘い雰囲気が流れる。 二人は気付かなかった。彼らを見つめるアゼリアの紫紺の瞳に、切なく悲しい感情が揺らいでいたことに。そして、微かに立ち上るもう一つの感情にも… 「ユウ!!殿下がお呼びだ!」 仲間と他愛もない話をしていた夕闇色の髪の青年が、ゆっくりと振り返る。 「リヒト。騒ぞうしいぞ。」  「内親王殿下がお呼びだっての。いいねぇ!アゼリアの義兄ちゃんになる日も近いんじゃねぇか?!」 エティアナと彼、ユークリッド=エ=アランソ=シャヴィエルの関係は、仲間内にすでに知れわたっていた。囃されて思わず顔が赤くなる。 「リヒト。ユウをからかうな。お前と違って純情なんだ。」 先ほどまで話していた同僚がかばってくれる。 「何だと?てめ、ロタール!表出ろ!!」 「ここは外だが?」 「ムキーッ!!今日こそ決着だ!槍もてぇい!!」 「……アホは放っておいていいから、早く行きなさい。挙式の日取りの話しでしょう?」 「…あ、あぁ。ではまた後程。」 すでに妻帯者のロタールが、微笑みながら送り出してくれる。二人は喧嘩は多いが、以外と仲はいい。内宮に向かって歩き出したユークリッドに、リヒトホーフェンが、いい忘れたぁと遠くから叫ぶ。 「そういや、アゼリアもお前のこと呼んでたらしいぞ!!もてるねぇ!」
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