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だがその睨みは、母さんの鋭い視線の前では効果をなさず、僕はすぐさま目を逸らした。
そして……
「母さんの馬鹿やろーー!!!」
僕は逃げ出した。少し母さんの声が聞こえたけど、それは雑音でしかなくただ黙々と振り返らず逃げ出した。
――だって僕はまだ幼かったんだから――
――
―
夕焼けに染まる空が時間を告げ、皆が帰って行く。蝉はその短い生涯を終え、僕の瞳に溜まる暁の涙と一緒にポトリと落ちた。
「母さん馬鹿……」
一人…僕はブランコに揺られながら、俯いて地面を蹴る。
湿った砂は舞う事なく、ガツッと鈍い音を起てるだけだった。
僕は落ち込んでいた。始めてだったんだ、母さんに叩かれるのは。
やがて、太陽すっかり沈み、頼りの明かりが月と電灯だけになった。
夜でも夏は暑い。
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