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「卒業……か。卒業という言葉を別れだと捉える人もいれば、新たなる生活の幕開け、つまり始まりだと捉える人もいる。日本語ほど言葉の意味合いが多種多様な言語はないんじゃないかな?さて、リュウ。君はそのどちらに当てはまるのかな?」
彼女のいきなりの問いかけに、思わずキョトンとする。
その時、僕はどんな顔をしていたのかは分からないが、僕の顔を見て彼女はクスクスと笑った。
「あはは、いきなりこんな事を聞いてすまなかったね。けど、少し気になったんだ。中学卒業という人生で一度きりの舞台を終えた、君の現在の心境はどんなものかとね」
そう言って視線を正面に戻し、再び歩き出す。
彼女の目はどこか遠くを眺めていて、少し儚げだった。
「僕の心境ですか……。どうなんでしょうね?変化を恐れる自分と、新たな学校を心待ちにする、そんな自分がいるのも確かです」
「だろうね。人間の心理とはいつでも曖昧なものだよ。……けどね……」
そこで少し間が空く。
ざぁっと胸を締め付けるような風が吹いた。
「私はどうしても……この卒業に別れしか感じとれないんだ。どうしてだろうね……?」
寂しげに呟く彼女の横顔が、僕の心にチクリと刺さる。
彼女に何を言ってあげればいいのか分からない。
僕は……彼女に何がしてやれる?何も出来ない。
そんな自分が……悔しかった。
「おや」
彼女が立ち止まり、さっきより幾分明るい顔で僕の方を見る。
「そういえば、君とこんな風に帰路を共にするようになったのも、この場所からだったね」
僕も立ち止まり、その場所を見つめる。
そうだ。彼女と知り合ったのも、こんな時間帯の……この場所だった。
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