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「勇気…」
博貴が優しく声を掛けた。
勇気は抱えた頭を上げて博貴に顔を向けた。
「いいか?俺達はいつかここから脱出するんだ。何ヶ月かかっても何年かかっても、必ず柏崎に戻る。だから、心配なんてするなよ!幸いにも俺達は四人でここにいる。食料の減りは早いかもしれないけど、孤独じゃない。独りじゃないんだよ。お前がいて、沙紀ちゃんがいて、洋子がいて、俺がいる。いつもの四人がいるんだぞ!無敵だぜ!!」
博貴は思い切り笑って見せた。
勇気を安心させるために。
独りだった時、助けてくれたのは勇気だったから。
今度は自分の番だ。
博貴が転校してきたのは、中学2年の時だった。
父親の地方への転勤と聞いた時、冗談かと思った。
十四年間過ごした埼玉から新潟に行くなんて考えたこともなかった。
「父さん、俺は残るよ…」
勇気を振り絞ってそう言った時、父はニコッと笑って頭を撫でた。
「ごめんな。残してやりたいが、お前だけ残すことは出来ない」
笑顔のはずの父の目はとても悲しそうだった。
急な転勤で家族を巻き込むのは優しい父には辛いことだったのだろう。
その日以来、残りたいとは言わなくなった。
父の悲しい目は見たくなかった。
「なぁ、博貴。本当にいっちまうのか?」
埼玉にいた時に一番仲の良かった坂東俊司(バンドウ シュンジ)が帰り際に聞いてきた。
「あぁ…仕方ねぇよ…」
俊司は「そうか…」とため息を吐き、空を見上げて無口になった。
時折、「そうだよな」とか言いながら石を蹴った。
博貴が引っ越す日、俊司はチャリで見送りに来てくれた。
「これ持ってけよ」
俊司はポケットから何かを取り出して博貴の手に握らせた。
それは俊司が大切にしていた、兄貴から貰ったというギターを象った携帯ストラップだった。
「ありがとう。大事にする」
「おう」
博貴は直ぐに自分の携帯に取り付けて見せた。
「恰好良いじゃんか」
俊司はうつむいて鼻を思い切りすすった。
ジュルジュルと音を立てて、目からは涙も溢れた。
いつも笑っていた俊司のみたことがない泣き顔だった。
「中学生にもなって、泣くなよ」
博貴が茶化すと、俊司は顔を上げ、にんまり笑った。
「向こう行っても連絡よこせよ!!」
「おう!!」
二人の最期に、さよならはなかった。
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