無人島

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引っ越しは夏休みの間だった。 家族で手分けして荷物を片付けた。 母は台所周りを、父はそれぞれの部屋を、二つ下の弟は母の手伝い、博貴は父を手伝った。 四人が住むには十分の一軒家。 見た目は借家なので目を瞑るとして、中に入ってびっくり。 今風の造りなのだ。 カウンターキッチン何て恰好良い物まで付いているし、風呂も深くて狭かった前の家に比べて、丁度いい深さに足が伸ばせる。 トイレの便座も温かい。 何から何までいいこと尽くしだった。 念願だった自分の部屋まで貰えて、人生が明るく開けた気になっていた。 夏休みの間中は友達が出来るわけでもなく、前の友達とも遊べるわけでもなく、退屈の一言だった。 夏休みが開けて、遂に登校初日。 当時の担任の新井先生が先に教室に入っていった。 先生は教室をグルリと見渡して一言。 「転校生くんです!!」 と言って博貴を促した。 女性の先生は何故こうも奇抜な発想なのかと頭を抱えた。 張り切っているからだろうか。 そんなことを思っているうちに教室がざわめき始めた。 先生も慌てて手招きしている。 博貴はあぁ、と頭を下げて教室に入った。 向こうの方から男子が「んだよ、男かよ!!」と罵声を浴びせてきた。 他の男子も机を叩いて「帰れ」を連呼している。 その中で一人だけ無反応な子がいた。 それが勇気だった。 勇気はこちらに目を一瞬だけ向け、困り顔の博貴をとらえた。 すると立ち上がって言った。 「お前ら、うるせぇ!!黙ってろっての!!ねぇ、新井ちゃん」 新井先生は確かに歳も若いが「ちゃん」付けでいいのかとも思った。 先生は助かったと言うように軽く説明をして博貴を空いた席に座らせた。 「よろしくな!!」 勇気が斜め後ろの席から声を掛けてきた。 博貴はニッコリ笑い、「あぁ」と言った。
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