無人島

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昨日。 ザザ――――ッ… 何が鳴っている。 聞き覚えのある音。 テレビの砂嵐か… いや、どこか違う。 そうか、昨日あのまま駐車場で寝たのか。 痛た… 身体中が悲鳴を上げている。 アスファルトの上で寝たんじゃそりゃ痛くなるか… 博貴はまだ開かない目をそのままに立ち上がろうとした。 ザザッ、ザッ… 違う!? アスファルトの上なんかじゃない。 博貴は慌てて目を開けた。 「眩しッ!!」 夏の太陽が嫌な熱気を浴びせている。 次第に目が慣れ始め、辺りの様子が見えてきた。 「ここは…どこだ…」 見覚えのない砂浜に博貴はたたずんでいた。 まず博貴はポケットの携帯電話を確認した。 ある。 財布。 ある。 昨日持っていた物は全て無事だった。 「どうなってんだ…」 波打ち際でわけも分からず立っている博貴。 額からは暑さと不安から、大量の汗が噴き出してくる。 「ヒロちゃん…?」 背後から洋子の声がした。 放心状態の博貴は振り向けない。 「ねぇ…」 洋子が博貴にぴったり寄り添って腕を引いた。 「よ、洋子…」 それしか言葉が出てこなかった。 「ヒロちゃんも連れて来られたみたいね…」 「勇気と沙紀ちゃんは!?」 博貴は洋子の両肩を掴み、前後に揺すった。 洋子は岩礁の陸寄りにある洞窟の様な場所を指差した。 「あそこに、いるのか…?」 博貴の言葉に洋子は首を縦に振るだけだった。 彼女自身混乱しているのだろうとそれだけは今の博貴にも分かった。 「行こうか」 博貴の問いかけに洋子はやはり頷くだけだった。 洞窟の内部は思った以上に狭く、高さは大人の背丈程で幅は四人が何とか輪を囲める位だった。 「博貴!!」 「ヒロくん!!」 洞窟に顔を覗かせたと同時に奥から勇気と沙紀の声がした。 「よう」 二人の話によると三人はこの洞窟内に寝かされていて、博貴の姿だけが見えないと心配していたらしい。 「ところで、今何時か分かるか?」 勇気が博貴に尋ねた。 「あぁ、携帯電話は盗られてなかったみたいだから…」 そう言ってポケットから携帯電話を取り出した。 「今は朝の8時だ」 「その携帯電話は掛けられないのか?」 「あぁ、圏外だ…」 「そうか…」 この時、一つ分かったことがあった。 今、自分達は電波のとどかないような場所にいるんだと。
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