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「やっぱすっげーや!ばーちゃんのせんりがんは」  手放しで喜ぶ昌平を優しい目で見ながら、しかし祖母の笑みには力がない。それでも昌平の肩に手を乗せ、何処か遠くを見るような眼をして言葉を紡ぐ。 「戸棚の中におやつがあるよ。今日は大福みたいだねえ」 「それもせんりがん?」  昌平が心底嬉しそうな顔で祖母の目を見たが今度は軽く微笑みながら頷いたのみで、肩に乗せた手に多少力をこめておやつのある居間へと先を促した。  昌平は満面の笑みで先程凄い速さで駆け上がったばかりの階段を楽しそうに降りて行く。  長い年月を経た木製の階段は弾むような昌平の足取りに、少しだけ悲鳴をあげた。  家の周りは一面緑に囲まれていた。他の民家を見るためには道ならぬ道を2、30分は悠に歩かなければならない。  コンビニやスーパーに行こうとするなら車を一時間以上は走らせなければならず、その家はまるで海の外れにぽつんと浮かぶ無人島のようだった。  人が訪ねてくる事は滅多に無く、時間は驚く程にゆっくりと流れていた。 「ばあちゃん、外行こうよ~!」  大福の白い粉とあんこを口の周りにいっぱいつけたままで昌平が言う。 「おやまあ、お口の周りをあんこだらけにして・・・。こんなお顔で外に出たら、皆に笑われてしまうよ」 「誰もいないよ!人なんて」  一応言葉を返してはいるが昌平も少し投げやりな感じだった。祖母は苦笑いしながらおしぼりで昌平の口の周りを丹念に拭う。  体を抑えつけられて身動きの取れない昌平は手足をじたばたさせてどうにか逃れようとしたが、結局逃れられたのは口の周りが綺麗になった後だった。少し悔しそうな顔をしつつも昌平はまた大声を張り上げる。 「はやくはやく!!いこーよー!」  しかし祖母の顔は渋い。 「でも、今日はこれから雨が降るわよ。今からお外に行ってもすぐ帰って来る事になるだろうから、今日はお家の中で遊ぶことにしようね」  空は抜ける様に蒼く、9月に入ったというのに真夏のような暑さだった。当然の如く昌平はただでさえ大きな目をより一層大きく、まんまるくする。 「ばあちゃん、なに言ってんのさ!だって、お外はあんなに明るいよ?」  流し台の上にある小窓を指差して昌平が言う。半分ぐらい開いたその小窓からは差しこむ日の光と、木々の合間に太陽を感じることができた。
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