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「そうだね、今はね。・・・でも、しばらくしたら雨が来るよ。見ててごらん」
祖母は不適とも取れる態度で一種異様な笑みを浮かべた。昌平にはもちろん祖母がただ微笑みかけているようにしか見えないが。
結局言いくるめられたような感じでその日は居間でトランプをして遊ぶ事になった。
始めの内は名残惜しいという思いと、祖母の言葉に半信半疑で昌平は外をちらちらと見ていたが、次第にババ抜きに夢中になっていき、そんなことはどうでもいいことになってしまったようだった。
祖母はゲームに集中する素振りを見せながら、そんな昌平の様子を興味深そうに観察していた。
「はい、おばあちゃんがあがりだよ」
「あ~!!くっそ~・・・」
2勝2敗で並んでいたのにこのあがりで祖母にまた一勝差をつけられ、昌平は心底悔しそうに持っていたトランプを放り投げた。
そのトランプ達が重力に負けて地面に身を触れさせた瞬間、雷の爆音が薄い壁を通して家の中にも鳴り響いた。
「うわわわわ」
普段は虚勢を張っている昌平も慣れない雷の音に驚き、慌てて祖母の体にすがりつく。
そして雷の余韻が覚めやらぬ中、外では気付けば大粒の雨が降り出していた。
「ほらね、降り出した」
昌平を抱き抱えてその頭を撫でながら祖母が言うが、昌平はずっと目を伏せたままぶるぶる震えているのでそれに応えられない。それでもやはり祖母の凄さを感じずにはいられなかった。
雨が、規則正しいリズムを刻む。
テレビもラジオも点けていない昌平の家はもちろんのこと、周りからの雑音は殆ど無い為に雨の音は不気味な程に澄んで聞こえた。
どす黒い雲に厚く覆われた空からは、絶え間なく大粒の雫が降り注ぐ。
舗装されていない通路はあっという間に粘土質になり、無数の水たまりを作った。
そして普段は手に掴めそうな程に近くに映る木々は薄白い霧のようなものに遮られて、途方もなく遠くに見えた。
祖母はそんな外の様子を見るともなしに見ながら、昌平を腕に抱き抱えていた。
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