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「うそじゃないんだよ」
昌平の目には少し涙が滲んでいる。しかし、それを拭おうともせずに、弁解とも言い訳ともつかない言葉を紡ぐ。
「だって『せんりがん』なんてホントにあるわけないじゃん。うそだよ、そんなの」
クラスメイトの二人はあくまで冷静だった。
子供は実際に目には見えないもの、そして友達の自慢話等に対しては悔しさや反発心から疑ってかかる事が多い。
特に昌平の話の様な不思議な事象には羨ましいという想いも強く、信じたいという気持ちとは裏腹に、頑なに否定してしまう事もままある。
「うそじゃないよ、ほんとうだよ」
しかし昌平にそれがわかる筈もなく、まるで祖母自体をも否定されているような気持ちになり、泥沼にはまっていく。
「じゃあ、『ショーコ』を見せろよ」
「だって、『ショーコ』なんて見せられないよ。形はないし・・・」
昌平はバツが悪そうに二人の顔を交互に見ると、クラスメイトの二人はしてやったりという様な顔をしている。
「やっぱりうそじゃん。しょうへいのうそつきー」
「うそつきー」
教室には他に誰もいない。
まだ放課後になってそんなに時間は経っていないが、大体の子供はすぐに家路についてしまう。
昌平の小学校に部活は存在しない。これは保護者からのたっての希望でそうなった。ただでさえ心配なのに、深い時間になってしまったら余計に心配が増す為ということだが、子供達にとってはプラスばかりではない。
昌平のように、親が夜遅く帰ってくるという家庭も少なくはなく、寂しい思いをしているようだ。
昌平をからかう二人の少年もまた、その例に当てはまる。
「・・・じゃあ、みせるよ」
しばらく「うそつき」コールが続いた後に、うつむいていた昌平は顔を上げてうるんだ瞳を二人に向けた。
「え?なんだよー?」
「みせるよ!『ショーコ』!」
はっきりとそう言い切った。
「うそつき」コールはとうに止み、教室は奇妙な静けさに包まれた。昌平の声の余韻だけを残して。
「どうやってみせるんだよー?」
「そうだよー」
多少怯んでいた二人がようやく口を開いたが、間髪入れずに昌平は言う。
「うちにきなよ」
しかしこの言葉に少年たちはまた怯んだ。
少年たちの家もまた、学校からは遠く離れている。その上昌平の家は二人の家とは逆方向だということは、下校の時に見ているので知っていた。
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