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だからこそ今まで一度も行かなかったし、行く気にもなれなかったのだが。昌平の家にこれから行くとなれば、帰る時にはもう暗くなっているであろうことは火を見るより明らかだった。
親がたまたま早く帰ってくることも全くない訳ではないし、何より夜道を長い間歩かなければならないのは怖かった。この辺りには街灯は無いに等しく、民家も多くはないので夜になると本当に真っ暗になってしまう。
「え・・でも」
「だって・」
少年たちの言葉は覚えず歯切れが悪くなってくる。しかし昌平の決心は固く、強い立場に立ったという自覚があるかどうかはわからないが、先程よりは強い調子で二人に詰め寄る。
「きたら、『ショーコ』みせれるよ。きなよ!」
考え込む時間はさして長くなかった。後の恐怖よりも目先の好奇心が上回ったようだ。
「じゃあ、みせてみろよ!『ショーコ』」
いつもならばものの数十分で駆け抜けて行く道を、昌平はゆっくりと歩いていた。というのも、今日はそうしなければならない理由があった。
「まだかよー」
その理由の内の一人が不平を漏らす。学校から歩き始めて一時間以上が経過していた。
こちらの少年の家も離れてはいるが、通ったことのない道を延々と歩かされ、実際以上に時間と疲れを感じているのかもしれない。
「もうすぐだよ」
対して昌平は通い慣れた道。しかし、普段は周りの物に目も暮れず走り抜ける道は、歩いてみると様々な発見があって面白かった。昌平の顔も自然とほころんでいる。
しかし、そんな未知なる体験も終りを迎えようとしていた。
恐ろしく年季の入った木造建築、昌平の家が目前に見えた。
「あそこだよ」
昌平が指を指すと少年たちはようやくかという安堵の色と、古びた家への驚きの色とを半々ぐらいに表情へ含ませた。
うっそうと茂る葉々、余り舗装されていない通路、薄汚れた二階建ての家屋。ともすれば廃墟と取れなくもないその景観に、昌平だけが全く臆せず溶け込んでいく。
二人は多少たたらを踏みつつも、当然のことではあるが至って平然と歩いていく昌平の後についていった。
「ただいまあっ」
建て付けの悪い引き戸を力一杯開いて、ランドセルを放り投げる。そして二人を玄関に招き入れた。
「ちょっとまってて」
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