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「小十郎…さん、小十郎さん」
唇と唇を合わせる。普段会えない分、その時間が何よりも惜しいひとときとなる。
「ん…ふッ」
佐助のぎこちない動きに、小十郎は合わせながら、深く深く。佐助の後頭部をがっしりと掴んで、より深くキスをした。
「愛して……たよ」
泣いて、赤くして腫れ上がった目は、何かを物語っていた。
「すごく、すごく…好きでした」
そう言って俺から離れようとしていた。
(なぜ…どうして…!)
「離れるな!」
小十郎の、自分の意思と反して感情を表す左手は、強く握られ、そして離れていく佐助の右手首を掴んだ。
そう、佐助の右手く──
「離してよ!そして早く起きろっ!!」
「は?」
ガツンと小十郎の頭に鈍い振動がきた。
何が起こったのだろうと顔を上げて見ると、般若と同等なんじゃないかと思うぐらい怖い佐助がそこに立っていた。
佐助の手にはフライパンが握られている。
「今何時だと思ってんの?」
佐助が放った言葉を聞いてハッと頭を覚醒させた。
「やばい…な」
小十郎の仕事は、伊達会社の社長秘書。
秘書はスケジュールの確認、社長の世話等々、皆が考えるような仕事。
そういう仕事は、大抵朝早く起きることが普通。
それなのに…
不覚にも、時計の針は7時48分を指していた。
おわり
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