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――私は早い頃に祖父に見限られた身でね。頂点に到達できない落ちこぼれには用はないから好きにやれって言われたよ。
正直、期待されて構われるのもうざったかったからありがたかったんで、好きにやってみたら思いの外早くに自分の限界を知ってしまった。
私は自分の覚えられる範囲のものならば全て覚えた。魔術はもちろん、結界や呪咀の類すらもな。
ここまでなら技術や努力の範囲だ。しかしその先は才能がなければ踏み込めない領域。私が許容できる程度のオドではそこに踏み込むことはできない。
そんなわけで私は今まであまり学んでいなかったこと、まあつまり歴史や鍛冶について学びながらゆっくりと余生を過ごそうと思って店をかまえたんだが、まさか弟子にしてくれなんて輩が現れるとは驚いたよ。
弟子をとるなんて初めてだからどんなもんかと思ったが、よい素材を自分の手で研いていくのは案外悪くはないな。
いいか無色。お前はそれほどの素質を持っている上に師がこの私なんだ。いずれは頂点に立つと期待しているぞ。
期待している分、それを裏切ったときはどうなるかわかってるな?
さあ、それが嫌なら修業に励め出来損ない――
また雪子さんの言葉を思い出す。
あの時、あの人ははっきりと期待していると言った。
ならば俺はそれに応えなければならない。それはすでに目標ではなく義務だ。
あの人が到達できなかった高みまでいかなければならない。
両手にはますます力が籠もる。
オドの注入が終わるまであと少し。無心になろうと思い、息を吐き出す。
途端
「―――いっ!!」
頭に激痛が走った。
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