壱、行列

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  「蕨(わらび)ぃぃぃぃー!!」  京の都の夏の緋色がかった夕刻の空に、その声は谺(こだま)した。  呼ばれた本人は、自分の家の縁側で足を投げ出し、爽やかな風に腰まである髪と、橙の着物をなびかせ、のんびりと空を眺めていたところだった。  蕨は一瞬ビクッとし、自分がいるところから少し離れた手前にある家の門に目を向ける。 しばらくすると、その門からひょこっと声の主が顔を出す。 十代後半くらいの少女だった。 肩まである髪は、後ろで二つにまとめられていて、背は十代後半にしては少し大きい。 麻の生地で作られた藍染の着物には、涼しげに泳いでいる赤と黒の金魚が一匹ずつ描かれていた。 蕨は一瞬でそれが親友であると気付く。 「みなちゃん!」 蕨はいそいそと、下に脱ぎ捨ててあった草履を履き、親友の元へ走っていく。 「早う早う!」 みなちゃんと呼ばれた少女は、蕨が自分の元へ来るや否や、その右手首を掴んで家の前の道へと飛び出した。 「何?何やの?」 少し息を切らせながら、蕨は背を向けて走っている親友に問う。 みなちゃん――湊(みなと)――は、何も答えずに走る速度を緩めた。
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