壱、行列

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  少し手前に、たくさんの人だかりができていた。 そこの道は十字路になっている。 京内でも大きい道として知られるこの道は、今や右から左へと、たくさんの人が列をなしており、もはや交通の弁は完全に止まっている。 湊はその列の一番後ろにくると、背伸びしたり跳び上がったりして十字路の真ん中を見ようとする。 ……が、周りは背の高い大人ばかりなので、彼女が見えることは無く、さらに人が増えてくるばかりだった。 「あー!!もう、何やね!」 ついに湊が痺れを切らした。 「全然見えへんて!おっさんら、どきぃや!!」 『おっさん』という言葉に、周りの数人(男性)はギロリと湊を一瞥したが、彼女の苦労が減った訳ではない。 「ねぇみなちゃん。何しとんの?」 尚も頑張り続ける湊に、後ろで見ていた蕨は聞いた。 「それは、アンタも手伝わな、教えんさかい!」 「手伝うったって、何すればええのん?」 理由がなければ、頑張る意味もないと、蕨は心の中で密かに思った。 「この列の一番前を、ぶんどるんや!」 「ぶんどるって……」 もっと綺麗な言葉を使えないものだろうか。 それに、答えになってない。 まぁ、食い付くだけ無駄か。と蕨は短いため息をついて列の一番前に行く方法を探し始めた。 .
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