彼女は生きる手段を知らない

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キッチンへ行くと、コップはすでにテーブルの上に置いてあり、バファリンが一錠添えられていた。バファリンとこのクスリとの飲み合わせは、大丈夫だと医者から言われているけれど、こんなに酷い頭痛に悩まされているのだから説得力がない。 しかし結局ぼくはクスリとバファリンを一緒に、飲む。 そのとき、鍵穴をがちゃがちゃといじる音がした。振り向くと、重たいドアがぎい、と開いた。美咲が忘れ物をしたのかと思っていたら、それは黒くて長い髪が印象的な、中学生ぐらいの少女だった。 「202号室……合ってますよね。ミサキちゃん、と、同居してるかたですよね」 少女は耳と肩の間にこの部屋の鍵をはさみ、片腕ではスーツケースを抱え、もう片方の手にはスーパーの袋がぶら下がっていた。 透明な買い物袋からは玉ねぎやらにんじんやら、しばらくお目にかかれなかった食材が溢れそうなほどに入っていた。 少女はスーツケースを玄関に置き、耳にひっついていた鍵をテーブルに置いた。 「小野寺ひよ子、といいます。今日から、ここで住まわせていただく約束を、していたと思うんですが」 「ヒヨコ……ああ、あの」 ぼくは喫茶店での美咲とのやりとりを思い出す。思い出そうとして頭を使い、また眩暈を起こし、テーブルの角に思いっきり腰を打ってしまう。少女は驚いたのか買い物袋をその場に落としてしまう。だけれどぼくはそれどころではなかった。 「だいじょーぶ、ですか」 買い物袋を持ち直し、少女は靴を脱いで急いでぼくの元へやってきた。 「大丈夫、いつも、頭が、痛いんだ」 ぼくはぐらぐらと揺れる視界と戦いながら、なんとか畳の部屋へと戻り、寝転がる。そうか、『ヒヨコ』が来る日は、今日だったのか。横向きのままで少女を見ると、キッチンで何かやらかしているようだったけれど、よく、分からない。腰の痛みは、突き刺すような頭の痛さですぐにどうでもよくなった。
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