彼女は生きる手段を知らない

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「拾ったのよ」 そう、美咲は言った。深夜に美咲の仕事が終わり帰って来たのと、ぼくが浅い眠りから目覚めたのはほぼ同時だった。 「拾われたんです」 ヒヨコが、美咲に調子を合わせて言うのだから、美咲は笑って、ぼくも笑おうと思ったけれど、同時にやってくる頭痛が、そのじゃまをする。 カレーの匂いがしていた。ヒヨコと美咲が楽しそうに食事の支度をしていた。 何となく、泣きたくなる。 なんでもヒヨコは駅前で占いをしているらしかった。手を握り、目を閉じ、他人から見れば瞑想のような格好になる。 でも、特に客人の運勢や運命を言い当てるわけでもなく、ただ、それだけだったのだ。手を握るだけの仕事で、一回百円。だれでも最初は胡散臭い職だと思うのだが、百円を払った客は、皆納得して帰ってゆくのだった。
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