彼女は生きる手段を知らない

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次の日の昼、美咲とヒヨコは電気屋へ行き、一番安いプランでインターネット接続の契約をした。 所々に傷のついたノートパソコンにスイッチを入れる、ヒヨコ。まるで宝物を見つけたかのような表情だった。美咲は心配そうにしていたが、なんとかパソコンの電源は入り、起動音が響いた。ほっと、胸を撫で下ろす二人。 説明書を見ながらの接続作業は美咲たちが帰宅してから夕方まで続き、ぼくは相変わらずの頭痛で動けずにいた。 このままでいると畳と同化してしまうような気がして、重い頭を抱えて起き上がろうとするけれど、その姿がよほど滑稽に見えたのかふたりに笑われてしまう。 そうしているうちに、夕方が来て、美咲は濃い化粧をし、ぼくは少し憂鬱になる。 「夕飯に、きのうのカレー残してあるからね、私のこと、別に待ってなくても、いいから」 「ねえ、ミサキちゃん」 「ひよ、ハギオのことよろしくね。二番目の引き出しにバファリン足してあるから」 「ミサキちゃん、どこ行くんですか?」 「シゴト」 「どこ?」 「え、『モルヒネ』ってとこ。キャバクラかな。趣味悪い名前よね」 美咲がそう言うが早いか、ヒヨコは美咲に駆け寄り強く、強く抱きしめた。まるで、小さな子供が母親を求めるように美咲の細い身体に腕をまわし、美咲の胸に顔をうずめる。十秒くらい無言が続くと、そのあとは小さな子供を慈しむように美咲の頭を撫ぜ、額と額をあわせる。 「いってらっしゃい」 「行ってくるね」 美咲はそれがまるで毎日のように続いていた行為だったかのように驚かなかった。ぼくは、ずいぶんと驚いて少しだけ痛みを忘れてしまいそうなほどだったのに。
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