彼女は生きる手段を知らない

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美咲が出て行ってからはしばらく、ヒヨコはパソコンを叩いていた。よほど、インターネットがしたかったのだろうか。それを眺めていると、ヒヨコはパソコンをたたみ急に立ち上がった。 「ちょっと、お客さんが来る予定になってしまいました、ごめんなさい……どこの部屋を使えば、いいんだろう」 「それって、美咲が言ってたアレ?」 「そうです、一回百円のお仕事。拠点をここに変えたんです」 「それって、美咲は」 「いいって。その代わり、代金はお家賃にまわします」 幼げな顔なのにしっかりとした敬語を使うヒヨコは少し不自然だ。絶対に、数年間は切っていないであろう長い髪をヒヨコはひとつにまとめる。と同時に、部屋のチャイムが鳴る。 ヒヨコは、ドアに駆け寄り「どーぞ」と叫んだ。入って来たのは、五十代ぐらいであろうサラリーマン風の男だった。酒臭い。 「今日もご苦労様です」 丁寧に挨拶するヒヨコ。 「いやいや」 そう言って、男はリビングへ入ってくる。必然的に、ぼくと目が合うが、男は優しそうに笑う。 「きみもお客かい」 ぼくは頭を押さえながら答える。 「いいえ、ここの住人です」 よく見ればヒヨコは男と手を繋いでいた。売春か、と一瞬思ったが、咄嗟に美咲の言葉を思い出した。これが、ヒヨコのシゴトなのだ。 ヒヨコは男の手を、美咲にしたように慈しむように撫ぜ、触り、目を閉じた。しばらくすると、男は手を離し、 「今日はもういいよ、ありがとう」 と言って百円を置いていった。 不思議な光景だ。 「ありがとう。いつでもきてくださいね」 ヒヨコがそう言って手を振り、男も振り返す。
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