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「お前器用だな」
「うん? 俺これは昔から得意なんだ」
荒井の大きな手が、サクサクと天津甘栗の皮を剥く。栗の中央に爪で切れ目を入れて、両端をギュッと押す。すると見事に中身がポロリと取れる。俺も荒井を見習ってやってみたのだが、二つに割れたり渋皮が残ったり、上手くいかないのだ。それを見かねた荒井が皮を剥くのを一手に引き受けてくれた。
「矢内、口開けて」
「ん」
控え目に開けた俺の口に、荒井が栗を放りこんでくれる。そっと噛むと甘くて香ばしい味が口の中に広がる。
「おいしい」
「そうか」
荒井が嬉しそうに俺のことを見るから、何だか落ち着かない。視線があちこちに泳いでしまう。
実はこの甘栗、昨日のデート中に荒井が買ったものだ。「家への土産だ」と言っていたのだが、どうやら俺を部屋に呼ぶキッカケをつくりたかったらしい。その証拠に、栗が入った紙袋は未開封のままだった。
バツの悪さを隠すみたいに、俺は剥かれた栗に手を伸ばし、つるんとしたそれをほうばった。と、
「あ」
って荒井が声を発した。
「え? 何?」
「それ最後の一個」
「え?うわ、ごめん!」
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