typhoon

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 喉がいがいがして、二、三度咳をした。そうしたら、いつの間にか側に来ていた荒井に「大丈夫?」と声をかけられた。 「風邪?」  芝生に座っている俺を、長身の奴が心配そうな顔で覗き込む。 「ううん、ただの咳だよ」  ありがとう、と言う俺に荒井が笑みを見せた。  荒井は俺のクラスメートだ。といっても、そんなには親しくはない。たまに話をする程度だ。  荒井の容姿はハンサムな部類にはいるのだと思う。人なつこい笑顔と明るい性格で周囲から好かれている。どちらかといえば内気な俺とは、対照的だ。 「矢内(やない)は部活中?」  膝の上の描きかけのスケッチブックに、荒井が目を落とす。 「ああ、うん……」  美術部の俺は、さっきからスケッチブックに鉛筆を走らせている。そしてそれを荒井に見られるのは少し恥ずかしい。なぜならそれは野球グラウンドの絵で、もしかしたら俺の気持ちが伝わるかも知れないから。 「お前は?部活終わったのか?」 「今は休憩」 「ふうん」  ユニフォーム姿の荒井が俺の隣に腰を下ろした。プンと汗の臭いが鼻をかすめる。
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