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何か話題を作るらなければ、そう思った時に荒井が口を開いた。
「矢内さ、よくここで絵を描いてるよな。なんで?」
荒井が俺を見つめる。
「なんでって……」
ストレートな質問に、俺はおかしいほど動揺してしまった。お前見たさに、なんて口が裂けても言えない。
「えっ、や……あの……。かっ、描きやすいから……」
「描きやすい?」
「絵になるってか、うん、そんなかんじ……」
しどろもどろな俺をじっと見られれば、いたたまれない気分になる。視線を外してほしいのに、そうしてくれる気配もない。荒井はずっと俺をその瞳に写している。
「その絵の中に俺はいる?」
「えっ……?」
荒井が言った言葉の意味がよく分からない。思わず見つめてしまったのだが、荒井は普段からは考えられないほどとても真剣な顔で。
「俺は……。俺は部活中も授業中も矢内の姿を探してるんだけど……。矢内は……どう?」
「……えっ?それって……」
「……そういうことだよ」
突然の告白に、頭が真っ白になった。
台風がくる。
■終わり
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