223人が本棚に入れています
本棚に追加
30分待ってやっと順番が回ってきて、俺達はいそいそと箱に乗り込んだ。観覧車は俺達を乗せて、ゆっくりと空に上がって行く。高さが増すのに比例して、街の灯が小さく見える。
「きれいだな……」
ため息みたいな荒井の声。
「うん。凄いきれいだ」
その灯はまるで宝石のように煌めいている。
「富士山が見える」
「え、どこ?」
「矢内の後ろ。そこじゃ見にくいからこっちにこいよ」
荒井が自分の隣の席をポンと叩いた。
「……うん」
俺の胸がトクンとなった。
「ちょっと怖い……」
「平気だって」
荒井に手を貸して貰い、俺は揺れる籠の中を荒井の隣に移動した。繋いだ手は、そのままだ。もしかしたら俺の早い鼓動は、伝わっているのかも知れない。
「どこ、富士山」
「そんなの見えないぜ」
「は?」
俺の問いにかえってきたのは、予想外の答えだった。
「日が暮れてるのに、見えるわけないだろ?」
「騙したのかよ」
「騙される方が悪い」
「なんかムカつく」
ソッポを向いた俺の頬に、荒井の掌がそっと触れてくる。
「矢内……」
最初のコメントを投稿しよう!