First kiss

4/5
前へ
/13ページ
次へ
「あ……の……」 「こっち向いて」  囁く荒井の声はとても甘い。俺の肩に手が回されて、嫌でもこの先の展開が予想できる。 「矢内、キスしたことある?」 「えっ……」  キスって単語に、敏感に反応してしまった。俺の体がピクリとなったのに、きっと荒井は気付いている。 「な、ないけど……。お前は……?」 「俺もない。でも今から……」  顎を取られて、荒井が顔を寄せて来た。焦点が合わなくなってから、俺は瞳を閉じた。  唇にやわらかい感触。  ファーストキスだけじゃなく、俺達はセカンドキスもサードキスも交した。 「今度はもっと濃厚なやつやろうな」  荒井は今まで見たことがないくらいの上機嫌で。 「煩いよ、早く帰れよ」 「うん、帰る」  帰れ、帰る、なんて問答をかれこれ二十分も続けている。それもホームで。二人とも後ろ髪引かれる気分で、別れ難いんだ。 「明日学校なんだから、次の電車が来たら帰れよ」 「わかったよ」  荒井の降りる駅はまだ二駅先だ。俺がこの駅で降りるから、荒井も一緒に降りたのだ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

223人が本棚に入れています
本棚に追加