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「あ……の……」
「こっち向いて」
囁く荒井の声はとても甘い。俺の肩に手が回されて、嫌でもこの先の展開が予想できる。
「矢内、キスしたことある?」
「えっ……」
キスって単語に、敏感に反応してしまった。俺の体がピクリとなったのに、きっと荒井は気付いている。
「な、ないけど……。お前は……?」
「俺もない。でも今から……」
顎を取られて、荒井が顔を寄せて来た。焦点が合わなくなってから、俺は瞳を閉じた。
唇にやわらかい感触。
ファーストキスだけじゃなく、俺達はセカンドキスもサードキスも交した。
「今度はもっと濃厚なやつやろうな」
荒井は今まで見たことがないくらいの上機嫌で。
「煩いよ、早く帰れよ」
「うん、帰る」
帰れ、帰る、なんて問答をかれこれ二十分も続けている。それもホームで。二人とも後ろ髪引かれる気分で、別れ難いんだ。
「明日学校なんだから、次の電車が来たら帰れよ」
「わかったよ」
荒井の降りる駅はまだ二駅先だ。俺がこの駅で降りるから、荒井も一緒に降りたのだ。
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