使者

2/8
前へ
/188ページ
次へ
「今日はもう寝ることにしよう」 ユーリスはそう呟くと、読みかけの本にしおりをはさんだ。 そして、椅子から立ち上がりランプの火を消そうとした瞬間…… ドンドンドンッ!! と、激しく家のドアが叩かれた。 誰だろう、こんな時間に。 ここは人里離れた森の中。訪問者など皆無に等しい。 来るとすれば、テルマ地方から森を抜けて、王都へ行く旅人が道に迷い、偶然ここに来る場合が何度かあった。 「どちら様でしょうか?」 ランプを持ち、ドアの方へ向かいながら尋ねる。 此処等で野盗が出るとは聞いた事はないが、夜遅いぶん注意が必要だ。 『王の遣いとして、ケルティカから参りました。 フレイズの薬師-クスシ-を捜しております』 よく通った男の声がドアの外から響く。 自分を捜している? なぜ今更になって、王が自分を捜しているのか……。 ドアを開けるべきか、追い返すべきなのか、ユーリスは迷った。 それを感じ取ったかのように、外の声は続ける。 『我々は今、フレイズの薬師を必要としております。 どうか、お力を貸して頂けないでしょうか!』 必要としている。 そう言われてしまっては仕方がない。 ユーリスに放っておく事が出来るはずもない。 「今開けます」 カンヌキを外し、ドアを開けると、暗闇の中に三人の男が立っていた。 全身灰色のローブ姿。 一番前にいる男が、ローブのフードを脱ぎながら言う。 「遅くに申し訳ありません。 早急に、フレイズの薬師にお会いしたいのですが」 年の頃三十といったところだろうか。 とても優しそうな男の顔は蒼白しきっていた。 「ボクが、フレイズの薬師です」 .
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

317人が本棚に入れています
本棚に追加