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「今日はもう寝ることにしよう」
ユーリスはそう呟くと、読みかけの本にしおりをはさんだ。
そして、椅子から立ち上がりランプの火を消そうとした瞬間……
ドンドンドンッ!!
と、激しく家のドアが叩かれた。
誰だろう、こんな時間に。
ここは人里離れた森の中。訪問者など皆無に等しい。
来るとすれば、テルマ地方から森を抜けて、王都へ行く旅人が道に迷い、偶然ここに来る場合が何度かあった。
「どちら様でしょうか?」
ランプを持ち、ドアの方へ向かいながら尋ねる。
此処等で野盗が出るとは聞いた事はないが、夜遅いぶん注意が必要だ。
『王の遣いとして、ケルティカから参りました。 フレイズの薬師-クスシ-を捜しております』
よく通った男の声がドアの外から響く。
自分を捜している?
なぜ今更になって、王が自分を捜しているのか……。
ドアを開けるべきか、追い返すべきなのか、ユーリスは迷った。
それを感じ取ったかのように、外の声は続ける。
『我々は今、フレイズの薬師を必要としております。 どうか、お力を貸して頂けないでしょうか!』
必要としている。
そう言われてしまっては仕方がない。 ユーリスに放っておく事が出来るはずもない。
「今開けます」
カンヌキを外し、ドアを開けると、暗闇の中に三人の男が立っていた。
全身灰色のローブ姿。
一番前にいる男が、ローブのフードを脱ぎながら言う。
「遅くに申し訳ありません。 早急に、フレイズの薬師にお会いしたいのですが」
年の頃三十といったところだろうか。 とても優しそうな男の顔は蒼白しきっていた。
「ボクが、フレイズの薬師です」
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