使者

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王都に入ることが許される。 それは、ユーリスにとって思いがけない事だった。 十二年前まで、フレイズ一族が暮らしていた王都ケルティカ。 ユーリスは当時三歳だったため記憶には無いが、多くの話を聞いていた。 その王都へ行くことが出来る。 父の無念を、自分が晴らす事が出来るかもしれない。 「王都に入ることが許されるなら、ボクに出来る限りの働きをします」 「感謝致します。 それでは早急に仕度を、準備が整い次第ケルティカへ向けて出発致しますので」 男達は外で待つと言い、部屋を出ていった。 その際に、王都への滞在がどれ程になるか分からないということと、薬師としての道具、薬草類は宮廷に全て揃っているため、必要最低限の荷物をまとめるようにと言われた。 「おい、騒がしいな。 五月蝿くて眠れやしない」 しゃがれた声が、部屋の角にある本棚から響いた。 「急遽出かける事になったから、急いで支度を整えないと。 オトナリさん、起こしちゃってごめんね」 「こんな真夜中に出かけるって、どこへだ」 本棚の一番上段、そこから小さな顔がのぞく。 それは、猫の様な顔をしているが耳は長く、青銀に輝く被毛をもっていた。 「聞いていたんでしょ? 王都へ薬師の仕事をしにだよ」 ユーリスは皮カバンを取り出すと、必要な物を部屋中からかき集め始めた。 「分かっているのか? お前があんな所に行けば、それだけで命に関わる様な危険があるかもしれないんだぞ!」 オトナリは、本棚からカバンへと物を詰め込むユーリスの肩へ飛び下りる。
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