使者

5/8
前へ
/188ページ
次へ
「分かってる。 でも、この機会を逃したら、この先一生王都へ入るお許しなんてやってきっこない。 ボクは知りたいんだ」 「俺は忠告したからな! 何があっても俺は知らない!」 オトナリは不機嫌そうに尾を揺らした。 「心配してくれてありがとう。 無理はしないよ、大丈夫。 さて、後は薬草と……」 揃っていると言われても、やはり自分で作った薬草の方が処方しやすい。 薬棚から貴重だと思う薬草を十種類ほど抜き取り、それぞれ布袋に入れる。 ナイフと、先ほどの読みかけの本と、他に二冊の本をカバンの奥へとつめた。 数枚の着替えと包帯をその上からつめ、最後に薬草の袋を入れる。 他に必要なものは……。 ユーリスは考えながら部屋を見渡した。 一人暮らしの簡素な部屋。しかし十二年間過ごしてきたこの家が、とても好きだった。 ふと目に留まった机の上の写真立てを手に取り、それもカバンにつめる。 ベストを棚から取り出し、今着ている服の上にかぶった。 次に裏口から外へと出ると、すぐ横にある家畜小屋の戸を開ける。 小屋の中には、羊が二頭とニワトリが数羽眠っていた。 「当分帰って来られないと思うから、お好きなところへお行き」 そう言って、小屋の戸を開けたままユーリスは戻った。 荷物でいっぱいのカバンを手に取り、掛けてあるローブを上から羽織る。 オトナリの姿は何処かへと消えていた。 .
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

317人が本棚に入れています
本棚に追加