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「分かってる。 でも、この機会を逃したら、この先一生王都へ入るお許しなんてやってきっこない。
ボクは知りたいんだ」
「俺は忠告したからな! 何があっても俺は知らない!」
オトナリは不機嫌そうに尾を揺らした。
「心配してくれてありがとう。 無理はしないよ、大丈夫。
さて、後は薬草と……」
揃っていると言われても、やはり自分で作った薬草の方が処方しやすい。
薬棚から貴重だと思う薬草を十種類ほど抜き取り、それぞれ布袋に入れる。
ナイフと、先ほどの読みかけの本と、他に二冊の本をカバンの奥へとつめた。 数枚の着替えと包帯をその上からつめ、最後に薬草の袋を入れる。
他に必要なものは……。
ユーリスは考えながら部屋を見渡した。
一人暮らしの簡素な部屋。しかし十二年間過ごしてきたこの家が、とても好きだった。
ふと目に留まった机の上の写真立てを手に取り、それもカバンにつめる。
ベストを棚から取り出し、今着ている服の上にかぶった。
次に裏口から外へと出ると、すぐ横にある家畜小屋の戸を開ける。
小屋の中には、羊が二頭とニワトリが数羽眠っていた。
「当分帰って来られないと思うから、お好きなところへお行き」
そう言って、小屋の戸を開けたままユーリスは戻った。
荷物でいっぱいのカバンを手に取り、掛けてあるローブを上から羽織る。
オトナリの姿は何処かへと消えていた。
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