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そのため、以前宮廷に仕えていたフレイズの薬師を呼び寄せることになったという。
まさか、こんな少年だったとは……。
スニオンは、自分の前に跨るユーリスを見つめ、どう説明するか考えていた。
宮廷に仕えていた先代のフレイズの薬師が居ない今、この者に頼るしかないが、しかし……。
そんなスニオンの胸の内を知らないユーリスは、詳しい病状を把握しようと、スニオンに話を聞いた。
「私はイエラ姫のお付では無いので詳しい事は分かりませんが、症状は日ごとに変化しているようです。
はじめはただの軽い発熱。 宮廷の薬師が風邪薬を処方しましたが、姫様の容態は一向に回復せず、3日目には食事を受け付けなくなりました。
その後、一旦は回復をみせたのですが、咳の症状が現れ、今ではまた熱が出ているそうです」
「……そうですか」
今得られる情報だけでは、イエラ姫が何の病に侵されているのか判断が難しい。
実際に診てからでなければ、対処の仕方は見つかりそうにない。
その後は特に会話もなく、ユーリスはただ馬にしがみついたまま、流れる風の音をきいていた。
冬の終わりとはいえ夜の気温は低く、一刻も行けば、ユーリスの体は芯から冷え切ってしまう。
森は抜けていたが、ケルティカはまだ見えない。
閑散とした平地が続き、ぽつぽつと民家があるだけ。
静まり返る闇の中を、蹄の音だけが響き渡る。
更に一刻、全く休憩を取らず走り続けた。
「見えますか? あの橋を超えると、ケルティカに入ります」
手綱を握ったまま、スニオンは前方を指差す。
小さな街明かりが橋の向こう彼方に広がっているのが見えた。
ケルティカに入ってからの風景の変わりようは早かった。
はじめは閑散としていた町並みが、みるみる民家で埋まり、道も舗装されたものへと変わっていく。
外灯の灯る水路が現れ、その水路沿いに馬はひた駆ける。
目の前にはもう、大きな宮廷の城壁が見えていた。
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