流す涙のその訳は話せないから

7/7
前へ
/7ページ
次へ
「私は、恐れ多くも貴方様を愛してしまっています」  動けぬ男の目前で、女は続ける。 「ですから、貴方様が愛したその女性も、きっと愛せましょう」  雨雲から解き放たれた朧な月光が、二人を照らす。  街灯などは要らぬ、わざとらしさを含むまばゆさで以て。 「ですから……私は……貴方様の御側に居ます。 ずっと…………そう、ずっと……」  二人の頬に伝うのが雨の雫か涙の珠か。  それは二人にも判らぬまま、月は再び雲に隠れた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加