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~倉比学園 掟~
一, 我等の業を知られてはならぬ
一, 嘘をついてはならぬ
一, 死 以外我等の鎖から抜けることは許さぬ
・・・序章・・・
嵐の夜、彼女はひたすら走った。誰が生きているか、どこにいるかすらわからない。自分がどこを走っているのかもわからない。
彼女が足を動かすのは彼と最後に交わした言葉…―彼が動かない彼女にむかって言った言葉にすがっているからだ。
彼は無事だろうか。考えれば考えるほど嫌な事しか頭に浮かばない。無事だと思う度に頭から血を流した彼の顔が浮かんでくる。
目尻に浮かんでくる涙は雨によって流される。
まだふくれない腹部にそっと手を当てる。数秒後、手を離し全力で走る。彼の故郷はすぐそこだ。もう少しでつく。
目を凝らせば遥か遠くに建物が見える。建物に向かってがむしゃらに走った。
彼女は目を疑った。着いた彼の故郷は血臭で満ちちていた。あちこちに死体が転がっている。
その中の一角のドアが開き、何かをもった男が出てくる。
「やあ。遅かったね。待ちくたびれたよ」
男はゆっくりとした動作で手にもっているそれを掲げた。刹那、悲鳴が響く。男が持っていたのは彼の首だった。彼女は膝から崩れ落ちる。男が近寄ってくるが逃げる力もない。
「貴方の夫はなかなか手強かった。しかし。心が優しすぎたな。彼は人質を殺そうとしたら簡単にこっちに来てくれた」男は嬉々として語る。彼女はその光景をじっと見つめた。
「君は俺を裏切りこれと寝た。しかも子ままで作り逃げ出した。―…俺がどれだけ悲しかったなんて分かるまい」
男は彼女の前に首をつきだす。彼女は無反応だった。彼女は全く反応しなかった。
愛する人を失った彼女はこうして壊れた。
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