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昨日から続く雨は少しその勢いをなくしたものの、まだ欝陶しい。
いつもの時間通り帰って行った俊輔を見送って、傘を広げた和は店の鍵を締めた。
その傍にぴたりと寄り添う万里亜。
今日、万里亜は俊輔に名乗ってから一言も話していない。
男の客が何人か万里亜に話しかけたが、彼女が困ったそぶりを見せるので、その度和がやんわりと追い払った。
人見知り、というには何か違う気がする。
「……お前、どうする気?」
雨に濡れた階段を慎重に昇りながら、和は口を開いた。
え、と小さく漏らしながら万里亜は和を見上げる。
「いつまでこうやって俺にくっついてる気?」
「……」
表情が少し曇り、万里亜は俯いた。
伏し目がちのその顔を、和は素直に綺麗だと思う。
が、それだけで情を移せる程、純でもお人よしでもない。
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