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「ちょっとぉ~、お菓子はまだなのぉ~?」
麗鈴は家中に響く、後妻の声に顔をしかめた。
周りを見れば、侍女たちが忙しく立ち回っていた。
多少のイラつきを抑え、靴を脱がずにそのまま侍女たちの寮へと向かう。
寮は閑散としていたが、数人だけがなんとか残っていた。
暇そうに見えて暇ではない彼女を横目に、麗鈴はある部屋へと向かう。
そこは、麗鈴にとって、母親が死んでからも、本当の母親のような存在の人がいる所だった。
「失礼する」
小さく断りを入れて入ると彼女は裁縫をしていた手を止めた。
「気にしなくていいのに」
「いえ、一様は、お嬢様ですから」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、手招きをする。
麗鈴は素直に応じ、今日の出来事を話した。
すると、彼女は優しい笑みを浮かべた。
「良かったですね。私少々心配しておりましたよ」
安堵した声。
それに、かすかに麗鈴は疑問を感じる。
友達。
知人。
まだ、どちらの側なんだろう、と。
とりあえず、彼女に余計な心配をかけないために、何も言わないことにした。
そうして、しばらく無言で一緒に座り、彼女と時間を共有するのが麗鈴は好きだった。
しかし、今日は違った。
「お嬢様……」
沈んだ声。
それに、麗鈴は嫌な予感がした。
無言で先を促す。
彼女の言葉は、淡々と綴られていく。
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