7人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「鈴香ぁ?ご飯だよぉ?」
今日も、間抜けな母親の声が家中に響く。
鈴香にとって、この声は何よりも苦手だった。
未来の大人の姿がわかるきがして。
将来の母親姿が、わかるきがして。
鈴香は入ってきた母親の姿をちらりと見、またパソコンに目を落とした。
「鈴香ぁ」
母親の泣きそうな声に苛立ち、パソコンの電源を落とし、舌打ちを一つ残し、リビングへと下りる。
待っていたのは、口うるさい、古い考えしか持たない父親。
鈴香は誰よりも、父親を嫌っていた。
「おかえり」
小さな挨拶一つ、父親は返さない。
テレビにだけ視線を注いでいる。
母親があとから入ってきても気まずい沈黙は続いた。そんなものが嫌いで、鈴香もテレビを見続けていた。くだらない大人たちのニュース。
彼女はぼうっと、それらを流し見ていた。
「鈴香。進路は決まったのか?」
唐突に、父親が重い口を開けた。
「まだ」
ご飯に視線を落とし、小さく答えると、殴られた。
「俺が17の時はもう働いていたんだ。そして、進路も考えていた。お前はもう十分、大人なんだから。しっかりしろ!」
理不尽な説教。
鈴香はそれをすべて聞き流していた。
そして、気まずさは増していく。
ついに耐えられなくなり、
「ごちそうさま」
箸を置く。
そして、踵をかえし、小走りに部屋へと帰る。
重く長いため息は、すべて背中で受け止める。
そして、部屋で受け止めたものを、ゆっくりとはきだす。
「くっだんな」
言ってから急に家にいづらくなり、パソコンの電源を入れた。
最初のコメントを投稿しよう!