◆レイ◆

2/2
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「麗鈴ね、また遊んでくれなかった」 リビングに入ろうとして、そんな声が聞こえた。 「あいつは誰に似たのか堅物だからな。まったく子供らしくない」 続いて父親の声。 それに麗鈴は下唇を噛む。彼女を誰よりも早く成長させたのは、父親だった。 父親の実家は、政治家の固まりだった。 代々政治家だった。 だから、みんながみんな大人としての振る舞いを強要させられた。 しかし、理不尽にもあの若妻はいくら好き勝手やっても、叱られなかった。 麗鈴は、大人のつもりだ。 子供ではない。 大人として振る舞い、そして接する。 だが、周りはそんな彼女に 「子供は無理しなくても」 苦笑する。 麗鈴はそれをまったく受けつけない。 それどころか、跳ね返していた。 しかし、父親に改めて言われ、彼女の中の何かにひびか入ったような気がした。 「お嬢様」 侍女の無機質な声。 それに片手を軽く挙げ、ドアを開ける。 目の前に、父親と後妻がいちゃついている光景が広がる。 「私の分を、全て自室に運んで欲しい」 侍女に言いつけ、自身も部屋へと引き返す。 「一緒に食べたらいいだろう?」 父親の不満そうな声。 それに麗鈴は視線だけを父親にやり、 「お邪魔でしょうから」 言い放つ。 父親は苛ついた顔をし、後妻は終始にやついた顔で見ていた。 それに、麗鈴は吐き気を覚えた。 あの勝利を勝ち取ったような感じの、にやけに。 コンコン 控えめなノック。その後に続く、静かな足音。 「麗鈴様」 パソコンの前で何かを考え込んでいる麗鈴に、控え目な声がかけられる。 彼女は侍女に気が付き、椅子を回転させ、彼女と向き合う。 「なんだ」 向き合った侍女の瞳に、困惑の色が浮かぶ。 「実は、今日で私、お暇をいただきました」 麗鈴はただそれを無表情に聞いていた。 そして、 「そうか」 小さく呟く。 この侍女は、麗鈴の専属兼秘書だった。 理由はなんであれ、受け止めようと思った。 「失礼しました」 初めて聞いた、侍女の感情のこもった声。 それを背中で聞き、パソコンの電源を入れた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!