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「あれぇ?」
後ろ―――開けっぱなしのドアの向こうから、声がして振り返る。
けれど、廊下にはだれもいない。
「どうしてそんな嫌なこと言うのー?」
ゆるゆるとドアが閉まる。
お母さんが目を見開き、ひっと息を呑んだ。
「麻姫ちゃん!」
「うれしいなぁ、せーたくんに喜んでもらえてー」
見慣れた三日月のにんまり笑顔があらわれる。
どうやらドアと壁のすきまに隠れていたらしい。
‥‥‥まあそれは、麻姫ちゃんだからしかたないかもしれないけれど。
「早く出てきてくれればよかったのに」
内心ほっとしながら、文句を言う。
ちらと目をやると、お母さんは布団をかぶって震えている。
少しでも信じるなんて、まったくどうかしていた。
「やっぱりうそだよね」
「うそかもねぇ」
ゆら、と麻姫ちゃんの輪郭が、かげろうのように歪んだ気がする。
悲鳴が始まって、ぼくと麻姫ちゃんは廊下に出た。
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