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ぼくには、十一歳の妹がいる。
さらさらしたショートの髪も、ビー玉みたいな眼にも、ちょっと明るい茶色がかった女の子だ。
さっき妹は、くすんだ緑色のカマキリを吐き出した。
カマキリは今、少し赤で汚れた二本の鎌を不器用にごそごそと動かして、湿っぽいフローリングの床を這っている。
上から見下ろすと、ちょうど鳥の足跡のかたちだ。
脚は全部根本からちぎれて、そのうち一本だけが妹の手のひらにあった。
残りの脚がのどにひっかかっているのだろう、妹がしきりに痛そうな咳をするので、ぼくはそばに行って背中をさすってあげる。
咳は止まらない。
妹自身がソレを吐き出してしまいたいのだから、当然だ。
ぼくは小さい頃の喘息の発作を思い出す。
お母さんがいつもこうして背中をさすってくれたけど、ちっとも楽にはならなかったっけ。
きっとそこにはただ、気休めの意味しかないんだ。
苦しいとき、誰かがそばにいてくれるという、救い。
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