ぼくの ある非日常

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そして今、妹のそばにいてあげられるのは、ぼくしかいない。 とげの生えたような咳だけが響く、しんとしたダイニング。 家のどこよりも清潔だったはずだったそこは、ちょっと大変なことになっている。 ‥‥お母さんがいたら悲鳴を上げているだろうな。 まず目につくのは、虫。 テーブルの下に逃げていったカマキリの他にも、この部屋には様々な虫が棲んでいる。 しかもその全てが妹の口から出てきたせいで、かなり壊れてしまったモノばかりだ。 ‥‥ぼくがそんな仕打ちをするのを見たら、お父さんは真っ青になって怒るだろうなと思う。 脚の一本二本はざらで、胴が明らかに短かったり、羽がごっそりとなかったりもする。 羽のないチョウなんてもう、チョウには見えない。 それと同じように、お父さんとお母さんのいない家族なんて、もうぼくの家族じゃない。 不気味で不愉快な、異形のかたち。 「っ、けほっ、」 長い脚が三本、妹の手の上に落ちた。
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