ぼくの ウゴメく胎児

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今さらながら、できるかぎりそっとドアを開ける。 こわごわ中に入ると、隣のベッドはまだ、ぼくがさっき首まで布団をかけた妹と、動かない一つのふくらみがあるだけだった。 安心して少し力が抜けたけれど、本来の心配が消えたわけではない。 ぼくは先生を妹の前に立たせ、布団をめくった。 「わぁ‥‥‥ぎっ」 あまりに歓喜の色をあらわにした声を上げるので、思わず全力で足を踏んでしまった。 「い、痛っ」 「大きな声出さないでください」 ‥‥‥そういうことにしておく。 ぼくにとがめられて、伊沢先生は不機嫌そうな顔をした。 それでも片耳が外れた聴診器もそのままで、手早く妹の身体を調べる。 だんだんと明るくなるその表情。 ―――そこに、人命救助というあるべき意思は、大義名分としてさえ存在していなかったが。 「今のところ、命に別状はない」 その聞き飽きた言葉が、初めてうれしかった。 「今のところは、だけどね‥‥‥」 伊沢先生は妹を抱えて、診察室へ向かう。
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