ぼくの ウゴメく胎児

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家に帰ったのだろうか。 だまされていた時間を考えると、まだ病院にいるとは考えにくい。 理由は‥‥‥あまりにもわかりやすくて、考えたくもなかった。 悪ふざけでほかの病室に隠れていたりしないかな‥‥‥。 わずかな希望を捨てたくなくて、ぼくは麻姫ちゃんを探すことにした。 まず、向かいの部屋。 晶帆という名前があったので、あの白衣のきれいな人の部屋だとわかった。 ドアの前に立つと、中から話し声が聞こえる。 ぼくは少し大きくなった希望を胸に、ノックをした。 「どうぞ」 明るい返事が返ってくる。 ぼくはドアを開けて、病室に入った。 その狂った、寒気がするような光景に、息を呑む。 「あの‥‥‥なにをしているんですか」 「なにってオペでしょう?―――先生」 眩しい笑顔で、サイドテーブルにメスを、 ベッドに、四匹の美しいクロアゲハを並べて。 ひざまづく晶帆さんは、天使のようにささやいた。
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