ぼくの ウゴメく胎児

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麻姫ちゃんは、かならずこの近くにいる。 ぼくをつき動かしているのは安堵ではなく、恐怖にも似た焦躁だった。 冬の街―――四匹のクロアゲハが捕まるだろうか。 気付くと、次の部屋はお母さんの病室だ。 ここもまた、中から話し声が聞こえる。 ぼくははやる気持ちをおさえ、ノックをする。 「どうぞ」 麻姫ちゃんの、声がした。 ばたんとドアを開け、 「あら、あなた、」 「名前なんかどうでもいい」 こんなときにお母さんと話さなければならないなんて、いらいらする。 一瞬おびえた表情をして、それから叱るようなむっとした顔をするのも、気にいらない。 「麻姫ちゃんはどこ?」 お母さんは細い指で天井を指した。 「上の階ってこと?」 「いいえ」 その声に、とがめる色はなかった。
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