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「麻姫ちゃんがもし私の知っている麻姫ちゃんだとしたら」
憐れむような表情。
つやのない、チョコレート色の瞳。
光を吸いこみ閉じこめる、ぼくにもっとも近しい牢獄。
「―――死んだの」
「うそだ!だって麻姫ちゃんは」
たしかにここに居て、ぼくと話していた。
あの麻姫ちゃんは幽霊だとでもいうのだろうか。
それとも、ぼくの見た幻だとでも‥‥‥。
「お隣り、火事になってね」
「そ、そんなの知らないしっ」
落ち着かないと。
お母さんの言っていることなんて、信憑性はまるでない。
ほんとうであるはずがない‥‥‥のに。
のどをつかまれたように、呼吸がつらい。
「―――どうして」
あえぐ呟き。
どうして、
炎に包まれる家が、こんなにかんたんに―――思い出せるんだろう。
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