ぼくの 一人称の物語

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「腥太君、今から話すけど、いいかい?」 少し狭くなった診察室。 カーテンの向こうには、処置台の上に妹が寝かされている。 ぼくは固い表情でうなずいた。 「君の妹のお腹に、胎児がいることを確認した」 ありえないことだけれど、と続ける。 さすがに今は、うれしそうな顔はしていない。 ‥‥‥ただ足を踏まれるのが嫌だから、という理由だけではないと信じたい。 「でも、まだ子供を産める身体じゃない。 胎児のほうも発育が異常だから、最悪の場合、」 伊沢先生はためらうようにそこで言葉を切った。 「最悪の、場合?」 「君の妹の身体が、破裂する」 刹那、脳裏に生々しい光景が焼きついた。 打ち捨てられた妹の死体、その裂け目から血まみれの羽を開き、はい出てくる壊れた赤ん坊―――。 背を、冷たい虫の死骸が滝のように流れ落ちた気分だ。 「早く摘出―――堕胎したほうがいい」
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