ぼくの 一人称の物語

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「す、すぐお願いします!」 ぼくは息せき切って返事をした。 もうこれは考えている場合ではない。 「家族の同意が必要だから、君がこれに名前を書いたら明日にでもできる」 差し出された紙を受け取ろうとしたとき、ずる、と衣ずれの音がした。 カーテンの向こうだ。 とりあえず紙を持って行って、カーテンを引く。 「純架‥‥‥?」 降りようとしたのか、脚が診察台から落ちていた。 苦しそうな体勢なので脚を台の上に直す。 すると、妹の眼がぱちりと開いた。 「どこか痛い?もう大丈夫だよ」 焦点の定まらない液体のような瞳に、ぼくは話しかける。 「手術したら、元に戻るからね」 水でも―――いや、かみなりでも浴びたように、妹は身を震わせた。 「しゅじゅつ、いや!」 膝を抱えて、お腹を守るように丸くなる。 胎児のような―――姿。 「痛くないから」 「いや!」 木でできたように温かい色の瞳は、ぼくの顔をたしかにとらえた。 生気の代わりに、強い意思があった。 「いや」
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