ぼくの 一人称の物語

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ぼくは、胸に針でも突き刺されたような痛みを覚えた。 ―――妹は母親として、お腹の子供を守ろうとしているのかもしれない。 認識の痛みに、苦い複雑な感情がにじんだ。 それはきっと絶望で、哀しみで、子供のような嫉妬だ。 それでも妹のまっすぐな拒絶を、無視することはできなかった。 「君の同意さえあれば、手術は可能だ」 カーテンの横に立っている伊沢先生が、ぼくに言った。 つくづく無神経な人だ。妹にしっかり聞こえてしまっている。 妹が処置台の上で、びくりと身体を縮ませた。 「‥‥‥説得してみます」 伊沢先生は無表情にうなずく。 「手遅れにならないように」
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