2323人が本棚に入れています
本棚に追加
「―――っ!」
異様な目の前の光景よりぼくの平静を崩したのは、廊下から漏れるかん高い子供の悲鳴。
―――妹、だ。
ぼくと伊沢先生は同時に振り返り、しかし足を踏み出せたのは伊沢先生だけだった。
お母さんの首に回していた麻姫ちゃんの腕が、ぼくの肩にがしりと爪を立てている。
振り切ろうとすれば、無理に身体を伸ばした体勢の麻姫ちゃんを倒してしまいそうだ。
「離して、麻姫ちゃん!」
「お医者さんが行けばいいじゃない」
「でも、純架がっ‥‥」
小さな爪が食いこんで、肩が痛い。
「腥太くんさぁ」
一度振り返ってから診察室に向かった伊沢先生を見送りながら、麻姫ちゃんは呟く。
お母さんから離れて僕に身体を預けたので、耳元に囁く形になる。
「純架ちゃんばっかり大切なんだねー‥‥」
まのびした響きが、陰を帯びていた。
最初のコメントを投稿しよう!