ぼくの 一人称の物語

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「―――っ!」 異様な目の前の光景よりぼくの平静を崩したのは、廊下から漏れるかん高い子供の悲鳴。 ―――妹、だ。 ぼくと伊沢先生は同時に振り返り、しかし足を踏み出せたのは伊沢先生だけだった。 お母さんの首に回していた麻姫ちゃんの腕が、ぼくの肩にがしりと爪を立てている。 振り切ろうとすれば、無理に身体を伸ばした体勢の麻姫ちゃんを倒してしまいそうだ。 「離して、麻姫ちゃん!」 「お医者さんが行けばいいじゃない」 「でも、純架がっ‥‥」 小さな爪が食いこんで、肩が痛い。 「腥太くんさぁ」 一度振り返ってから診察室に向かった伊沢先生を見送りながら、麻姫ちゃんは呟く。 お母さんから離れて僕に身体を預けたので、耳元に囁く形になる。 「純架ちゃんばっかり大切なんだねー‥‥」 まのびした響きが、陰を帯びていた。
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