ぼくの ある非日常

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これから、どうしよう。 ぺたりと床に座って、あまり触りたくない回覧板に目を落とす。 こうしてとりあえずの難は逃れた訳だけれど、いつまでもインフルエンザ説が通用するとは思わない。 ‥‥あの子、いつ無理矢理入って来るかわからないし。 とにかく、麻姫ちゃんが帰ってきているということはもう夕方だ。 「ご飯にしようか」 顔をのぞきこんで聞くと、妹は口から残りの脚を指で引きずり出してから、小さくうなずいた。 電気ポットに瞬間湯沸かし器のお湯を注いで、沸騰ボタンを押す。 待っている間に戸棚を探そうと思っていたら、妹がカップ麺を一つ、両手で抱えて持ってきた。 「あ‥‥もしかして最後の一個?」 うなずく妹。 沸騰を知らせる電子音。 お湯を入れたカップ麺は妹にゆずることにして、ぼくは冷蔵庫を開けた。 いろんな意味で涼しい空間だ。 気休めにジャムとか取り出してみる。 ガラス瓶に貼られたラベルを眺めているうちに、また電子音が鳴った。 今度はタイマーだ。 「いただき‥‥ます」 プラスチックの箸を使って、麺を口に運ぶ妹。 食事中にあれが出てきたらものすごく嫌だろうなと思うけど、今までにそういうことはない。 むしろ好き嫌いが無くなって、食べることに関しては積極的になったみたいだ。 ‥‥今は好き嫌いとか言ってる場合じゃないんだけど。 ジャムにティースプーンを突っ込んでのろのろとかき混ぜる。 最初はそれなりに料理もしていたのだけれど、すぐに材料が底をついた。 お母さんには買い置きの習慣がなかったみたいだ。 ろくに家庭科実習なんてやらない私立進学校に通うぼくには、経済的な自炊のスキルなんて無いわけで。 必然とインスタントに頼らざるをえない。 ‥‥しかも財源がぼくのおこづかいだ。 ふたを開けたときについたのか、赤く透明に色づいた指はなめると甘かった。 ほとんどシロップみたいなイチゴの甘ったるい味が、妙にうれしくて、それが切ない。 そのうち妹はテーブルに突っ伏して寝てしまっていた。
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