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静かな寝息を立てて眠っている妹には、何の表情も浮かんでいない。
人形のような顔、微動だにしない長いまつげから名残惜しく目線を逸らし、ゆっくり上下する肩をつかんで揺する。
こんなところで寝たら、風邪をひいてしまう。
「起きて、ベッドで寝なよ」
「んー‥‥‥」
寝ぼけたままずるずると立ち上がる妹を支えて、部屋へ行った。
足元を歩き回る虫を踏まないようにするのが大変だ。
ベッドにもぐりこんだ妹は横を向いて、咳を一つする。
と同時に、互いの脚で絡まり合ったアリのかたまりが吐き出された。
「‥‥‥おやすみ」
ぼくはそれらをそっとつまみ上げて、そして、
左手で握り潰した。
途方もなく嫌な、感触がした。
手を開くと、黒いかたまりはまだ小さなかたまりのまま、ばらばらと床に落ちる。
いつもの癖で粘つく指を口に持っていこうとしたのを、慌てて止める。
たしかアリは蟻酸というもののせいで酸っぱいのだということを、思い出した。
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