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周りに生徒達の姿は無い。
廊下の窓から見えるグラウンドには、部活動を始める為に生徒達が徐々に集まり始めている。
しかし、そんな彼等とは全く無縁の状況に置かれた凛は一つ大きく深呼吸をし、意を決したように目の前のドアをノックした。
「……どうぞ」
「失礼します」
ドアの向こう側から、要の冷たい印象しか受けない声が聞こえてくる。
凛は、もう一度大きく深呼吸をしてドアノブに手をかけた。
凛が想像していた社会科準備室というのは、もっと資料でごった返しているものだったが、中に入ってみるとそこは予想に反してきちんと片付けられていた。
――意外に片付いてるんだ……――
「何してるんですか? 早く来なさい」
部屋の奥にある業務用の机に向かい何やらペンを走らせている様子の要が、こちらを振り向く事もなく淡々と告げる。
「あ、はい」
キョロキョロと部屋の中を見回していた凛は慌てて要の元へ駆け寄り、恐る恐る彼に話しかけた。
「あの、先生……お話って……」
「……あぁ」
要は今まで走らせていたペンを置き、帳簿を静かに閉じると凛の方に向き直る。
そして次の瞬間、要の口から発っせられた言葉に、凛は一瞬にしてその場に凍り付いてしまった。
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