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「すいませーん!」
後ろから声をかける彼に気づくはずもない。
彼は首を傾げ、周りにいる数人の車イスのお年寄り達に
「俺、取ってきますね」
と笑って言いボールへ駆け寄る。その時始めて彼女は後ろの気配に気がついた。と同時に直秋がボールを拾い上げながら
「声かけてんねんから、無視っちゅーんはどーなんやろね」
彼女は彼の嫌みも聴こえず、邪魔になると察し立ち去る。
「なんやねんあの女、感じ悪いなぁ…」
と、足元に掌位の袋が落ちているのに気がついた。拾って中身を確認すると、さっきの彼女の学生証や保険証が入っていた。
彼女の姿はもうない。
「高本くーん!」
同僚に呼ばれる。
「あ、はーいっ!」
それをポケットへ突っ込みボールを構える。
「いきますよー!」
満面の笑顔でボールを投げる彼。そして車イスの輪へ戻って行く。
それが二人の本当に短い出会いだった。
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