こころの壁

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直秋の小さなライブが終わり、人だかりはバラけていった。 そして直秋はゆずゆに気がついた。 「どないしたん?また何か落とした?」 ぼーっとしていたゆずゆを茶化すように言う直秋。 (そんなわけないでしょ) 「そっか」 笑ってギターを片付け始める。 そんな直秋の顔の前に(ねぇ)と手を出すゆずゆ。 (いつもこんなことやってるの?もしかしてフリーター?てゆーかニート?) 「は?」 (平日の昼間からこんなことしてさ) 「フリーターでもニートでもないよ、これは趣味」 と立ち上がる直秋。 「俺、あそこで働いてんねん」 そこから見える大きな建物を指差す。 (あれって、なに?) 「特養。分かりやすく言えば老人ホーム」 (へー) 「せやから平日休みやねん。わかった?」 (わかった) 「そや、これ」 とギターケースの中を見せる直秋。そこにはゆずゆのあの写真が貼られていた。 「気に入ったから」 と笑う直秋に、ゆずゆは自分の鼓動が早くなるのを感じていた。 (あたし、用があるからもーいく) 急いでその場を離れるゆずゆ。 首を傾げる直秋。 ゆずゆは焦っていた…。 あの日、もう恋はしないと、人を好きになったりはしないと心に決めていたから…。
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